中小企業の経営課題を解決すべく、診断や助言を行う中小企業診断士。経営コンサルタントの唯一の国家資格として、非常に高い人気を保っています。
この中小企業診断士の資格取得にあたって、1次試験合格後に2つの道があることをご存知でしょうか?ひとつは、2次試験に合格して実務補習を受ける道。もうひとつは、登録養成課程を受講する道です。登録養成課程とは、中小企業庁のガイドラインに沿ったカリキュラムを修了することで、2次試験と実務補習が免除されるというものです。
果たしてどちらの道を選ぶのが望ましいか?
それは、「何のために資格を取ろうとしているのか」「資格を取ってどうしたいのか」「今の自分に何をプラスしたいか」などによって変わってくることでしょう。
その検討のため、まずは登録養成課程とはどのようなものかを確認してはいかがでしょうか。実際に登録養成課程を経て、現在、副業として独立開業している山縣弘忠さんにインタビューしました。ぜひご参照ください。
今回お話を聞いたのは・・・
中小企業診断士(第11期登録養成課程修了)
中小企業のマーケティング支援会社 勤務
山縣源七社 代表
山縣 弘忠 さん
私の実家の家業は花火問屋です。大きな規模ではないものの、創業から100年以上も続いています。ですから私は子どもの頃から、中小企業が経営に力を尽くす姿を間近に見てきました。そしていつしか、「中小企業を支援したい」という思いを抱くようになりました。
もっとも、私自身は家業を継ぐ道を選びませんでした。大学卒業後は大手アパレルメーカーに就職し、数年後にITベンチャー企業へ転職しました。そのITベンチャー企業での仕事は、まさに中小企業を支援するものでした。全国の小規模メーカーや伝統工芸職人、クリエイター集団などの流通を支援する、インターネットを使ったサービスです。具体的には、企業規模は小規模ながら、高い技術力やデザイン力を活かした高品質な商品の背景にある、産地の歴史や製法、つくり手のこだわり等のストーリーを商品とともに世の中に発信し、eコマースで流通・販売する事業です。
私は事業の立ち上げから参画し、全国の数えきれないほどの経営者やものづくりの責任者とお会いしました。その現場でわかったことは、中小企業における課題は「モノを売ることだけではない」ということです。資金繰りや後継者育成など、会社の事情によってさまざまな課題があるのです。お話をうかがいながら、「中小企業には経営全般の支援が必要なのだ」と肌で感じました。
しかし、当時はまだ、中小企業診断士(以下「診断士」)の存在すら知りませんでした。
診断士の存在を知ったのは、さらに2回転職した後です。
その時、私は頸椎の病気で入院していました。手足の神経が麻痺する症状で、首の骨を削る手術をすることになりました。中枢神経に関わる手術だったこともあり、ベッドの上で人生を振り返り、自分のことを見つめ直しました。
「医師や看護師は、医療・看護に従事し、その専門性を証明するものとして国家資格を持っている。では、ぼくの場合はどうだろうか?自分の専門性を示せるような資格はあるのだろうか?そもそも、ぼくの専門性は何だろう?」
自分の専門性ややりたいことを考えてみると、2社目のITベンチャー企業で全国の中小企業を回っている頃が思い出されました。品質が高く、デザインもいいのに、思うように売れない商品。その状況から脱しようとしても、経営面に問題があり、なかなか改善できない。それでも改善に向けて提案をする。そんな情景が思い浮かびました。
そうした中で調べて見つけたのが、診断士の資格だったのです。以前から抱いていた「中小企業を支援したい」という思いとも合致しました。同僚に相談したりして調べれば調べるほど診断士の魅力が膨らんでいき、「診断士として中小企業の支援がしたい」と強く思うようになりました。
2013年9月。退院してすぐに受験勉強を始めました。
勉強にあたっては、自宅から最も近い予備校に通いました。1次試験に合格しなければ2次試験を受けられませんので、まずは1次試験を中心に勉強することになります。しかし、1年後の2014年度試験は残念ながら不合格でした。7科目トータルで、わずか2点足りなかったのです。
そこで2年目は、1次試験と2次試験の両方に合格することを目指して、猛勉強しました。1次試験はある程度できる自信がありましたし、2次試験も模試で高い得点を叩き出していました。そうして臨んだ2015年度の本試験。結果は、1次合格、2次不合格でした。もう1年間、今度は2次試験だけを対象に勉強をすることになりました。
模試の判定が良かっただけに、落ちたのは少なからずショックでしたが、自分の弱点も見えてきました。おそらく、限られた時間の中で膨大な情報を処理するのに、適応できなかったのだと思います。また、模試の解法では対応できていない面もあったのでしょう。そこで、勉強の仕方を工夫しました。たとえば、追い込まれた状態でも集中して考えられるようにジョギングをしながら解答を考えたり、あえて別の先生に教えていただいたり。
そのおかげでしょうか、模試の成績は前年よりも上がりました。しかし、2016年度の試験も不合格に終わりました。
この時点で、「自分はこの試験を何回受けても、たぶん受からない」と思いました。なぜなら、この2年間で質・量ともにこれ以上ないほど勉強していたため、得点力を伸ばす方策が考えられなかったからです。
しかし、「診断士として独立開業して中小企業を支援したい」という思いは消えませんでした。そこで、どのような方法があるかを考え、登録養成課程の道を現実的な視野に入れました。
登録養成課程にはいくつかの実施機関があり、機関によって通学条件などが異なります。たとえば、平日の昼間に通学するカリキュラムもあれば、土日の昼間に通学するカリキュラム、あるいは平日夜間と土日昼間を組み合わせたカリキュラムなどもあります。修了までの期間も、実施機関によって半年間から2年間までの開きがあります。
私はそのうち、2つの機関を候補として説明会に参加しました。
ひとつは、半年間、平日の昼間に通学する実施機関です。半年という短期間で修了できるのは魅力的ですが、会社を休職しなければ通うことができません。しかも、私にはなんとなく雰囲気がなじめないように感じました。
もうひとつは日本マンパワーです。こちらは、火曜・木曜の18:45~21:45と土曜の10:00~17:00の週3日通うカリキュラムです。修了まで1年間かかりますが、働きながら通えるのが大きなメリットです。説明会も非常に風通しのいい雰囲気でした。
これらを総合的に比較し、自分に合った雰囲気で、働きながら1年間で資格が取れる日本マンパワーを選びました。
日本マンパワーの登録養成課程に通い始めたのは、2017年3月です。
通う前に私が最も期待していたのは、実際に診断士として活躍されている講師の指導を受けられることです。どんなに1次試験や2次試験の勉強をして知識を持っていても、知識の使い方がわからなければ役に立ちません、支援の現場で知識をどのように使えばいいのか、そのノウハウを知りたかったのです。ですから、毎回の授業では目を皿のようにしてノウハウの吸収に努めました。
そして、期待以上のノウハウを得ることができました。これはおそらく、登録養成課程だからこそのメリットだと思います。なぜなら、頭で吸収したことを、会社や実習などの実地で使って確認することができるため、しっかりと自分の身に定着するからです。
一方、2次試験を合格して診断士になった方々とお話する機会もありますが、その多くが、診断士として中小企業の支援活動をしていないようです。理由は、「ノウハウやツテがないから」というものが多いように思います。つまり、2次試験の道では得られにくいことが、登録養成課程の道では得られるということだと思います。
登録養成課程の道を選んで良かったと思うことは、それだけではありません。特に良かったと思うのは、さまざまな面で自分のスキルレベルが上がったことです。
なかでも最も大きいのは、実習を経験できたことです。登録養成課程では、中小企業の経営診断を実践する実習を行います。普段の座学・演習の授業で学んだ理論やノウハウを、実践で活かす訓練です。ただ、訓練ではあるものの、実際に課題を抱えておられる中小企業に対して診断と助言を行うのですから、妥協は許されません。8人1チームとなり、チーム内の持てる力を最大限に発揮して本気で診断します。そのため、お互いの強みを引き出したり、弱みを指摘したりする必要にも迫られます。その結果、深いレベルで自分を振り返ることができると同時に、自分のスキルレベルが上がるのです。
1年間のうち、こうした実習は5回あります。つまり、業種や課題の異なる企業5社に対して、自分の力をぶつけられる実践の機会が5回もあるのです。これはおそらく、2次試験合格後に行われる実務補習とは、習熟度の度合いが違うのではないかと思います。
また、1年間の演習や実習を通して、社会人としての「診る」「聞く」「話す」「考える」スキルが格段に上がったと思います。
「診る」という面では、たとえば経営状態がどうかを診断する際に、会社のどこをどう診ればいいか。「聞く」という面では、ヒアリングの際に他者の話をどのように引き出せばいいか。「話す」という面では、プレゼンテーションや説明をする際にどのように話せば理解してもらえるか。「考える」という面では、どのようにロジックを展開していけばいいか。
こうしたことを、クラスメイトと1年間も切磋琢磨してきましたので、必然的に鍛えられました。先日、あるクラスメイトとも共感したのですが、今ではどのような場でどのような人と会う際でも、自信をもって臨むことができるようになりました。
さらに、自分の苦手分野を補完できるのも、登録養成課程のメリットだと思います。たとえば、私はどちらかというと財務・会計が得意ではありませんでした。ただ、苦手だからと言って避けて通れるわけではありません。授業では毎回、なんらかの演習がありますので、財務・会計にも触れざるを得ず、結果として苦手分野を補完できました。
こうして、2018年3月に無事修了し、診断士の資格を得ることができました。現在は、中小企業のマーケティング支援会社に勤務しながら、副業として診断士活動を行っています。当初は家業の花火問屋の経営支援から始めましたが、お客様の診断を全力で行っていくうちに高く評価され、紹介などで契約先が増えていきました。支援の内容としては、もともとの得意分野である店舗マネジメントをはじめとするマーケティング関連が多いでしょうか。地域の活性化についても、これまで培ってきた地産食品や地場産業、伝統工芸などの知見を活かしてお手伝いをしています。
また、最近は社員教育などの人材育成に関する依頼も増えています。これは、クラスメイトから「山縣の強みだ」と気づかされたことです。登録養成課程を受講しなければ、自分の強みだとわからなかったかもしれません。そうした新たな強みを教えてもらえたのも登録養成課程のおかげです。
ちなみに、私たち第11期生のクラスメイト24人は職種も年齢層も多様で、たとえば職種は、金融、IT、メーカー、社労士、経営者等々。もちろん個性もさまざまです。いろいろな考え方を持つ人と関われたことは非常に刺激になり、修了後の今でも心強い仲間になっています。
2次試験の道を選ぶか、登録養成課程の道を選ぶか。それぞれにいい点がありますので、一概には言えません。私は2次試験に二度失敗しましたが、ケーススタディを学んだこと自体は、とても良かったと思っています。特に、「診断士の活動をするつもりはないけれど資格がほしい」という人は、2次試験の道を選ぶのがいいかもしれません。
ただ、本当に資格を活かして診断士として中小企業の支援活動がしたいのであれば、登録養成課程をお薦めします。特に独立開業を目指す人には、間違いなく登録養成課程の方が役に立つと思います。実践的なスキルが確実に身につくからです。
最後にもうひとつ、ご注意していただきたいことがあります。それは、インターネット上で登録養成課程にネガティブイメージを与えるような書き込みが見られることです。私自身、受講前にそうした書き込みを見て、二の足を踏みそうになりました。しかし、実際に受講してみると、ネガティブな書き込みとはまったく異なる世界でした。むしろ、登録養成課程出身者はよく勉強しているとの評価も聞かれます。根拠のない噂に振り回されず、説明会などに出向いてご自身で判断されるのがいいのではないかと思います。
以上、ご参考にしていだければ幸いです。
働きながら1年で中小企業診断士になる
開講から修了まで1年間の学習の流れ
登録養成課程で中小企業診断士になった先輩たちの声
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